今日のデータ主導の世界において、企業の競争力は効率的なデータ管理に頼ることで保たれています。ETL(抽出、変換、格納)プロセスは、複数のソースからのデータを確実に集め、それを使用可能な形式に変換して、分析のために集中システムに格納するのに重要です。これにより、組織は貴重なインサイトを引き出し、情報に基づいた意思決定を行うことができます。そして ETL のユースケースは、リアルタイム分析やビッグデータ処理から、コンプライアンスや顧客の個別化まで、業界をまたがっています。

そこで本記事では、企業がデータ統合のパワーをどのように活用できるかを示す、最もインパクトのある ETL のユースケースを見ていきます。業務の効率化、コンプライアンスの徹底、顧客体験の改善など、ETL はビジネスの繁栄を支援する上で極めて重要な役割を果たしてくれます。

主なポイント

  • ETL プロセスは、様々なソースからのデータの管理、変換、統合に非常に重要。
  • ETL のユースケースは、金融、ヘルスケア、eコマース、製造業など、さまざまな業界に及ぶ。
  • そのユースケースで、企業はリアルタイム分析、データ移行、コンプライアンス、顧客インサイトの向上を達成するることができる。

ETL とは

ETL(抽出、変換、格納)とは、データエンジニアが様々なソースからデータを自動化して取り込み、それを一貫性のある形式に変換して、ターゲットデータベース、クラウドデータウェアハウス、または分析プラットフォームに格納するためのプロセスです。ETL プロセスは、データの一貫性、品質、および BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやレポート作成目的での可視化のためのアクセシビリティを確保するのに不可欠です。

  • 抽出:データベース、API、アプリケーション、クラウドサービスなど、さまざまなソースからデータを集める。
  • 変換:ビジネス要件を満たすために、データウェアハウスにデータを格納する前に、データをクリーニング、フォーマット、変換する。
  • 格納:変換されたデータは、データウェアハウスやクラウドストレージなどのターゲットシステムに格納される。

ETL は、異種のデータソースの統合において重要な役割を果たすことから、企業はデータの分析や、効果的な使用がしやすくなります。

ETL が現代のビジネスにとって重要な理由

データが常に増加して進化し続ける世界では、企業にはデータを効率的に処理する方法が必要です。ETL は、意思決定に必要なデータの正確性、一貫性、可用性を確保することによってデータ管理の主要な課題を解決することができるため、非常に重要です。ETL が非常に重要な理由には、以下が挙げられます:

  • データ統合:ETL により、企業は複数のソースからデータを抽出し、単一の統合システムに統合することができる。
  • 意思決定の改善:ETL によるデータの統合や変換によって、ビジネスは、より迅速で情報に基づいた意思決定に必要なインサイトを得られる。
  • スケーラビリティ:ETL プロセスは大規模なデータの格納を処理できるため、ビッグデータやリアルタイムのデータストリームを扱うビジネスに適している。
  • データコンプライアンス:ETL がデータの変換や検証を行うことで、企業はデータ品質の維持や、GDPR、HIPAA、CCPA などの規制要件を満たす事ができる。

業界別の ETL のユースケース

1.ビジネスインサイトのためのリアルタイム分析

ETL の最も一般的なユースケースの1つに、リアルタイムのデータ分析の実現が挙げられます。企業には、ダイナミックな環境での速やかな意思決定のために、最新のデータが必要ですが、リアルタイムな ETL プロセスだと、データは生成された時点で抽出、変換、格納されるため、企業は市場の変化への対応や、サプライチェーンの最適化、顧客行動の迅速な追跡ができます。

業界の例:

小売業では、リアルタイムの ETL パイプラインにより、競合他社の価格や顧客の需要をモニタリングすることで、ダイナミックな価格設定が可能になります。また、販売取引、顧客とのやり取り、市場動向などのデータが継続的に更新されるため、小売業者はリアルタイムでの価格調整や、在庫管理の改善ができます。

2.システムアップグレードのためのデータ移行

ビジネスの成長に伴い、レガシー(旧式)システムから最新のプラットフォームへのデータ移行が必要になることがよくあります。ETL はデータ移行において重要な役割を果たすことから、整合性や一貫性が失われることなく、データはあるシステムから別のシステムへ確実に移行されます。そしてこのプロセスには、旧システムからデータを抽出し、それを新システムの要件に合わせて変換して新環境に格納することが含まれます。

業界の例:

金融業界では、より優れた分析機能を活用すべく、ETL ソリューションを使って旧式のシステムからクラウドベースのプラットフォームにソースデータを移行することがよくあります。そして ETL は、機密性の高い財務データを安全かつ正確な変換プロセスで確実に移行し、ダウンタイムやデータ損失を発生させずにデータ品質を確保することから、企業は大量のデータを使ってインフラストラクチャを近代化できます。

3.Eコマースにおける顧客の個別化

個別化されたショッピング体験を提供したい EC 事業者にとって、顧客データは宝の山であり、それが ETL プロセスだと、Web サイト、モバイルアプリ、SNS など、複数のタッチポイントからの顧客データを統合して、それを単一のプロファイルに変換することができます。そしてそれによって、EC 企業は個別化された商品の推奨やマーケティングキャンペーン、顧客体験の提供ができるようになります。

業界の例:

Eコマースでは、ETL で、購入履歴、Web サイトのアクティビティ、顧客サポートのやり取りなどの顧客インタラクション ポイントを含むさまざまなソース システムからのデータを統合し、データレポジトリに格納して、個別化された製品の「おすすめ」を作成することができます。これにより、コンバージョン率が上がり、顧客エンゲージメントが上がります。

4.製造業における予知保全

製造業にとって、予知保全はダウンタイムを減らし、コストのかかる故障を防ぐのに不可欠です。ETL プロセスは、IoT センサーや機械からデータや収集および変換を行い、機器のメンテナンスが必要な時期を予測します。これにより、製造業者では操業の中断が減って機械の寿命が延びます。

業界の例:

製造業において、ETL は機械センサー、オペレーションシステム、生産ログからのデータを統合します。そしてそのデータは予測分析に利用され、それで製造業者は機器の故障が発生する前にメンテナンスのスケジュールを立てることができるため、ダウンタイムの削減や、修理費用の節約が実現します。

5.コンプライアンスとデータガバナンスの確保

医療や金融などの機密データを扱う企業は、厳格な規制要件を遵守する必要がありますが、ETL プロセスによって、GDPR(EU一般データ保護規則)、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)、CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの規制に準拠してデータの変換や保存がされることが保証されます。また、ETL はデータガバナンスポリシーの実装にも使うことができることから、特定のデータセットへは許可された担当者しかアクセスできないようにすることができます。

業界の例:

医療において、患者データは非常に機密性が高く、HIPAA 規制の遵守を確保するのは極めて重要です。ETL プロセスだと、データの抽出や変換の際にデータを匿名化・暗号化することができることから、必要なデータのみが法的要件に準拠して保存されることが保証されます。

ETL と ELT のユースケース

ETL(抽出、変換、格納)がデータ統合の従来の手法であったのに対し、ELT(抽出、格納、変換)は、特に最新のデータアーキテクチャにおいて、代替手段として頭角を現してきました。どちらの手法も効果的ですが、ETL と ELT のどちらにするかは、ユースケースやインフラ、パフォーマンス要件によりけりです。では、どのような場合にどちらを選ぶべきかがわかるように、両者のユースケースを比べてみましょう。

  • データ変換のタイミング

- ETL:

   ETL プロセスでは、データはデータウェアハウスやシステムに格納される前に変換されます。つまり、保存前にデータのクリーニング、正規化、処理が行われ、構造化された一貫性のあるデータのみが保存先に格納されるということです。

ユースケースの例:

  データの正確性とコンプライアンスが最優先される金融業界では、ETL の方がいいと思われます。監査や財務報告などの厳しい規制要件を確実に満たすのに、データはシステムに入る前に変換や検証が必要ですからね。

- ELT:

  ELT プロセスでは、データはまず生の状態でデータウェアハウスに格納され、その後ウェアハウス内で変換されます。そして ELT は、クラウドベースのシステムなどの最新のデータプラットフォームの処理能力を活用して、すでに保存された後のデータの変換を処理します。

ユースケースの例:

 ELT は、大量のデータの速やかな格納が重視されるビッグデータ環境で一般的に使われています。例えば Eコマースでは、ELT によって、企業はまず生のクリックストリームデータをデータレイクに格納し、特定の分析のために必要に応じて変換を適用することができます。

  • スケーラビリティとビッグデータ処理

- ETL:  

 ETL は、構造化されたデータが最も重要であり、事前に定められたスキーマ要件を持つ、より小さく複雑なデータセットの管理が必要な環境に最適です。また、ETL ツールは多くの場合、固定インフラが必要であるため、従来のオンプレミスシステムや、ビッグデータに主眼を置いていない環境に最適です。

ユースケースの例:
 
 ETL は、製造業において、センサー、機械、ERP システムからの運用データを扱うのによく使われます。このような場合、データ量は中程度ですが、運用報告向けに、構造化されたクリーンなデータがかなり求められます。

- ELT:  

 ELTは、膨大な量の生データをまずは保存して後で処理するのがより簡単な、クラウドベースのビッグデータ環境で成功を収めています。Amazon Redshift、Google BigQuery、Snowflake のようなクラウドプラットフォームは、膨大な量のデータを処理するように設計されていることから、ELT は難なく拡張することができます。

ユースケースの例:

ELT は、最適化されたルーティングや配送効率のために、リアルタイムのセンサーデータや GPS 追跡などの膨大な量のデータを速やかに処理および分析することが求められるような、物流やサプライチェーン管理で頻繁に使われます。

  • パフォーマンスと処理能力

- ETL:  

  ETL は、格納前にデータの変換をするのに、事前にかなりの処理能力が必要であり、それが従来のインフラに負担をかける可能性があります。ただ、データは格納時にすでに変換されているため、後のクエリや分析ははるかに速くなります。

ユースケースの例:

 医療機関では、データシステムへの入力の前に、データをクリーンかつセキュアにすることが求められるため、ETL を使うことが多いです。これで、機密性の高い患者情報がコンプライアンス基準を満たし、構造化されたデータに対してクエリが実行されることが保証されます。

- ELT:  

ELT は最新のデータウェアハウスの処理能力を活用して、データが格納された後に変換を実行します。この方法は、スケーラビリティとパフォーマンスが重要で、変換のワークロードをクラウドリソースに分散できるビッグデータシステムに最適です。

ユースケースの例:

 大量の非構造化コンテンツデータ(ユーザーの行動ログや SNS 上のやりとりなど)の処理が必要なメディアやエンターテインメント業界では、ELT を使うことで、企業はデータをサッと読み込んで、後で特定のコンテンツの推奨や分析に基づいて変換を適用することができます。

  • データガバナンスとコンプライアンス

- ETL:  

  ETL は、金融やヘルスケアなど、厳格なデータガバナンスとコンプライアンスが必要な業界に適しています。システムに入る前にデータを変換して検証することで、データが全て適切なデータクレンジングで業界標準や規制に準拠していることが、格納プロセス中のデータフローによって保証されます。

ユースケースの例:

銀行業務では、監査やコンプライアンス報告用にシステムに格納する前に、顧客取引のあらゆる種類のデータが検証され、規制要件を満たしていることを確認するのに ETL プロセスが使われます。

- ELT:  

  ELT はより柔軟性が高く、コンプライアンスが主な懸念ではないような環境や、将来の分析のために生データの保存が必要な場合に好まれることが多いですが、格納後にデータウェアハウス内で変換を適用することで、コンプライアンス要件を満たすことができます。

ユースケースの例:

スタートアップ企業やハイテク企業では、柔軟性が重要であり、実験用にデータを生のまま保存することが多いため、ELT が好まれます。また、コンプライアンス関連の変換は、データの格納後に、必要に応じて後で適用することができます。

まとめ

ETL と ELT にはそれぞれ明確な利点があり、さまざまなユースケースに適しています。ETL は、高いデータ品質、厳格なコンプライアンス、構造化されたデータワークフローが必要な業界に最適であり、対する ELT は、スケーラビリティ、柔軟性、大量の生データを処理する能力が優先される最新のデータアーキテクチャに適しています。企業はそれぞれの長所を理解することで、ニーズを満たし、目標を達成するための適切なデータ統合戦略を選択することができるのです。

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Q&A

1.ETL と ELT の主な違いは何ですか。

- ETL では、データは目的地のシステムに格納される前に変換され、ELT では、データは最初に格納されて、その後データ分析や機械学習アプリケーションのためにターゲットシステム内で変換されます。

2.ETL プロセスから最も恩恵を受ける業界はどれですか。

- コンプライアンスとデータの正確性が重要となる金融、医療、製造などの業界は、ETL プロセスから最も大きな恩恵を受けられます。

3.ELT はクラウドベースのプラットフォームに適していますか。

- はい、ELT コネクタは、大量の生データを処理し、最新のデータ ウェアハウスの処理能力を活用できるため、クラウドベースのプラットフォームやビッグ データ環境に最適です。

4. ETL と ELT を一緒に使えますか。

- はい、多くの組織では、構造化されコンプライアンスが重視されるデータには ETL を使い、ビッグデータやクラウドベースの分析には ELT を使うハイブリッド の手法を採り入れています。